マイナンバーカードと健康保険証
プレイステーション5とゲーム依存症
コロナ禍と東京五輪

喜多徹(野々市市・内科)

 驚いた。11月16日の新聞報道では、自民党のデジタル社会推進本部の政府に提出する提言案で、マイナンバーカードに健康保険証の機能を加えて一体化し、移行を促すため、現行の保険証は発行停止の検討を求めることを知った。
 ご存じの通り、マイナンバーカードの普及が進まず、管政権になり国を挙げてのデジタル社会実現に邁進する政策の一環だろうが、ずいぶん強引で無茶な政策である。国民皆保険だから、これに乗じて国民全員にマイナンバーカードを有無を言わせず持たせるということであろう。保険証一枚で全国の医療機関に受診できるが、マイナンバーカード一枚で受診できるとのキャッチフレーズでは様にならない。
 僕自身、マイナンバーは持っていないし、今は持つ気にもならない。マイナンバーを通じて個人のプライバシーが国家に把握されるのは何とも気持ちが悪い。日本人全体の感覚と思うが、国民が国家を信頼しているかと言えば多分信頼していないと思う。何しろ、昭和20年8月14日まで、鬼畜米英、最後まで竹槍で闘いましょうと言っていたのに、8月15日からは、アメリカの民主主義は素晴らしいと平気で言う国だから。
 大体、マイナンバーカードはなんとも時代遅れの設計思想により作られている。同カードは袋に入っていて、裏面のマイナンバーは隠れている。このカードが個人認証のためなのか、氏名と同様、個人確認のための記号なのかといえば、単なるIDカードだろう。だからマイナンバーを隠す必要はない。個人認証はICチップに入っているから、必要な時にパスワードを入力して個人情報にアクセスすればよい。そのパスワードですら4種類もあり混乱を招いている。ようは使い勝手がとても悪いということだ。
 医療機関も大変である。今、顔認証付きカードリーダーの無償提供が始まっているが、この「顔認証」がくせ者だ。すでにスマホ、タブレットの顔認証を使っている方もおられると思うが、たびたび「認証できません」が出る。受付現場で不認証が出れば相当混乱するだろう。大体このようなオンライン機器はうまく動作しているときは良いが、いざトラブルが発生したら、原因が操作のミスか、器機の不良か、プログラムのバグか、ネットのトラブルかなどの切り分けが素人では難しい。カードリーダーは無償でも、メンテナンスのためかなりのコストを支払うことになると思う。今から憂鬱である。とにかく政府が推奨することは、あまり良いことはないとつくづく思う。

 家庭用ゲーム機プレイステーション5(PS5)の販売が11月12日に開始され、第一次予約分は完売だそうである。価格は税込5万5千円程度。これに対抗して、マイクロソフトもXBOXの新機種を発売したそうだ。パソコンを自作している者から見れば、これだけの高性能CPUやグラフィックカード、ブルーレイディスクドライブを搭載してこの値段は安い。でも子どもの「玩具」としてみると、今の親は躊躇なく買い与えているのだろうか。さらにソフト代。今はダウンロード版が主流だそうだが、いろんなパック料金もあるようで、それを入れるとかなりの負担になる。そこで今の青少年を取り巻く、ゲームの実態をネットで調べてみた。そして驚嘆した。
 何より問題なのは、小中学生のゲーム依存症がすごい勢いで増加したことである。コロナ禍前、ゲーム依存症の人数は小中学生全体で100万人余とされた。しかし現在は巣ごもり状態を経験し、その倍近くいるのではないかと言われ、問題が深刻になっている。最近のゲームはネット上で行い、対戦型ゲームの場合、世界中の仲間(もちろん現実でまったく面識のない人)と連合軍を組んで相手と闘うそうだ。そうすると闘いの一部を分担することになり、勝手に離脱できなくなる。さらにこのような対戦型ゲームでは、『有料武器』があるそうで、闘いを有利に進めるため、強力な武器を購入するそうだ。そうすると毎月の課金額はうなぎ登りとなり、親がクレジットカードの請求書を見てびっくりするそうである。もう一点危惧するのは、最近のゲームの仮想現実感はすごく、相手を斬ったり、撃ち殺したり、もの凄い人数を殺しながらゲームを進める、人を殺す爽快感をゲーマーに与えることである。これがどんな影響を及ぼすのか。殺人を快楽と思う人格を一部のゲーマーに与えることを心配するがこれは杞憂なのだろうか。
 ゲーム依存症を治療する道はただ一つ。ゲーム機、スマホ、タブレットを子どもから取り上げることである。しかしそうすれば間違いなく、家庭内暴力が起こる。結局本人を入院させるしかないのである。とにかく日本にはゲーム依存症の専門医は数えるくらいしかないそうだ。保険医協会も春の定期総会でネット・ゲーム依存の専門医を招いて講演を聞く予定だったがコロナ禍で中止となった。
 ゲーム機メーカートップのソニーの売上は2兆円、2位の任天堂の売上は1兆円だ。何とかしなければならないだろう。

 笑ってしまった。11月16日、IOCのバッハ会長と管総理大臣の会談。何とバッハ会長はN95らしきマスクを着装している。管総理は普通のサージカルマスク。最初、総理はバッハ会長に一旦握手を求めたが、思い直してぎこちなくグータッチ。その後のあいさつも管総理は横向きにメモを見ながら「人類がコロナに打ち勝った証しの五輪にしたい…」。ちょっと外国の賓客に対しては失礼な態度だと思った。だが、冒頭のマスク姿にIOCと政府の本音がよく表れている。
 元博報堂社員で『原発プロバガンダ』『電通巨大利権』『ブラックボランティア』などの著者でノンフィクション作家の本間龍氏がネット上で 10月末、IOCから五輪の宣伝広告を取り仕切る電通と東京五輪組織委員会に、東京五輪を中止したい旨の連絡があったことを爆弾発言。初めはどうせガセネタと思っていたが、ネット上での繰り返しの発言、本間氏の他、スポーツ評論家として著明な玉木正之氏も、独自のルートで調べた結果、どうやら事実だそうだとなり、ネット上では大きな話題となっている。ところが新聞、テレビなど既存メディアはまったく無視。むしろコロナ禍でのオリンピックの準備が進んでいる報道である。本間氏によれば、それは当然のことだそうだ。なにしろ新聞5大紙(読売・朝日・毎日・産経・日経)は揃って五輪のスポンサーである。現在の報道姿勢は完全に政府に忖度して記事を書いているのだからと説明している。客観的に見れば五輪は中止が妥当だろう。
 現在、日本は、コロナ第三波と騒いでいるが、ヨーロッパ、米国の惨状を見るととても五輪どころではないだろう。日本の現時点での世論調査でも、五輪中止が多数意見である。本間氏によれば、IOCにとって中止の最大の障害は、アメリカNBCテレビと結んだ、五千億円と言われる五輪独占放映権で、中止となればNBCにお金を返却しなければならないが、それも保険会社が補償するとのことで折り合いがついたとのことだ。
 ご存じの方もいるかもしれないが、五輪の開催・中止決定権は、東京都や東京五輪組織委員会にあるのではなく、IOCにある。IOCが中止と言えば中止なのである。しかしそれをIOCから言い出すとインパクトが大きすぎ、ただでさえ開催都市応募が減っている現状、今後五輪を誘致する都市がなくなる可能性があり、IOCは自分たちから言いたくないそうだ。一方、日本側(組織委員会、政府)はどんな形にしてもやりたいし、中止となれば大きな金銭的な損失、何より発足して日が浅い管政権に大きなダメージとなるのを恐れているそうだ。そんな両すくみの状態で、バッハ会長来日。日本に最大のリップサービスを行ってチャーター機に乗って帰国した。最終的な決着は来年早々となるのではないかとの本間氏の予想である。
 どちらにしても、今回の東京五輪は中止し、これを機会に五輪の在り方を根本的に見直すべきと思うし、決断するなら早いほうが良いと思う。あまりにお金がかかりすぎ、商業主義に乗った今日の五輪は問題である。もちろんIOCという組織自体の問題もある。小池東京都知事はアスリート本位の五輪にしようと語ったが、こんな猛暑の時期に開催するなんてアスリート本位でなく、テレビ局本位である。今の形で五輪を続けるのはもう限界であると思う。

 以上、マイナンバーカードの問題、ゲーム依存症の問題、東京五輪と勝手なことを書いた。医療と関連性が深いのは、マイナンバーと健康保険証問題くらいだろうが、後の二つは、より広い社会的な問題だろう。深刻度から言えばゲーム依存症で、学校の問題として、不登校や引きこもり、いじめなど論議されているが、ゲーム依存症の問題は取り上げられることがまだ少ない。しかも、ゲーム依存症の専門医が極端に少なく、根本的な治療や解決策が確立されていない。保険医協会などもこの問題を真剣に取り上げてほしいと思う。僕は、子どもの射幸心を煽り、「課金」というシステムを駆使して大儲けしている、ソニーや任天堂の責任は大きいと思うが、あまりそんな声は出ない。皆様どうお考えでしょうか。