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『石川保険医新聞』6月号「ザ・公衆衛生(9面/政府発表以上に深刻)」の全文
福島原発事故による放射能汚染と内部被曝は政府発表以上に深刻
服部 真

 5月号で、福島原発事故による放射能汚染が政府が定めた避難地域を超えて広がっていること、各地で報告されている空間放射線量の測定値から想定される外部放射線の積算値(外部被曝)よりも土壌に降下したセシウム137などを吸入・飲食することによる内部被曝が危険であることを指摘しました。
 特に、胎児や子どもは放射線による発がんなどのリスクが高いため、「合理的に達成できる限り低く(ALARA)」の原則に従い、高濃度汚染地から急いで避難し、現行法令に従って汚染地の土壌を放射性物質として管理(隔離・除去)することを提言しました。
 5月に入り、周辺地域の放射能汚染が4月までの発表以上に広がっていたこと、政府の発表値が実態に即していなかったこと、住民の内部被曝が推定値以上に深刻であることが次々と明らかになってきました。 「由らしむべし、知らしむべからず」ではなく、正しい情報を伝えた上で、医療や日本の科学技術を総結集して必要な支援をすることが求められています。

国会答弁で衝撃的な内部被曝の事実

 5月16日、衆議院予算委員会で柿澤議員(みんなの党)の質問に対し、寺坂原子力保安院院長が衝撃的な事実を報告しました。
 電離放射線障害防止規則は、原子力施設を運用する事業者に対し、放射線管理区域に入る作業員について3か月に1回内部被曝の検査を行うよう規定しています。そのため、国内の原子力施設には内部被曝測定装置ホールボディカウンターが40台以上あります。
 福島原発以外の各地の原発で、3月11日の事故以降、ホールボディカウンターによる内部被曝定期検査で、異常値を呈した原発労働者が急増しました。4956件が精密検査を要する被曝レベル1500カウント/分を超え、そのうち1193件は通常は検出されない1万カウント/分を超えたと報告されました。問題なのは、4956件のうち4766件が原発敷地内の被曝ではなく、帰省などのため原発事故後に福島県内に立ち寄り、その際に住民や旅行者として内部被曝したと推定されることです。
 石川県の志賀原発(北陸電力)のある作業員は3月13日に福島県川内村に帰省し、自宅に数時間滞在して家族と共に郡山市に1泊し、その後、志賀原発にもどって検査を受けたところ5000カウント/分の内部被曝が確認されたということです。
 カウント/分(counts per minute)は1分間に検知された放射線の数で、体内で起こっている核崩壊の頻度を反映します。体内に取り込まれたセシウム137は自然に核崩壊してバリウム137mに変化する際β線を出しますが、β線の大部分は体外まで出てこないため、ホールボディカウンターでは検知できません。バリウム137m(物理学的半減期2.6分)が更に核崩壊し、安定なバリウム137に変化する際にγ線が放出され、このγ線が体外で検知されます。
 検出機器の性能や崩壊する核種によって値が左右されますので、測定されたカウント/分を単純にベクレルやシーベルトに換算することは出来ませんが、1万カウント/分という値が通常の原発労働(年間20ミリシーベルト以下)では見られない深刻な内部被曝であることは間違いありません。わずか数時間〜数日間、避難地域以外に滞在しただけで、原発労働者でも通常見られないほどの被曝をしていたとすれば、数ヶ月もそこで暮らしている方々はどれだけの被曝をしてしまったのでしょうか。
 この答弁を受けて、柿澤議員は住民のホールボディカウンター検査を求めましたが、政府は必要がないと拒否しました。周辺住民の不安が強いため、福島県が県民全員(約200万人)を対象に、30年間の健康調査実施を決めましたが、ホールボディカウンター検査は入っていません。
 除染など様々な予防措置や被爆者の健康管理を行うためにも、今後の放射線の健康影響を追跡するためにも、一番大切なことは被曝量を正確に推定することです。全国の原発などにある機器を総動員して、健康影響が出やすい10歳以下の子どもを優先して、ホールボディカウンターによる内部被曝の調査を緊急に実施する必要があります。

被曝の評価は原子力安全委員会の指針案に従え

 昨年の 8月 4日 に原 子 力 安 全 委 員 会 原子力施設等防災専門部会は「ホールボディカウンタ等の維持・管理等において踏まえるべき事項について(案)」を公表しました。その解説の最後に、「独立行政法人日本原子力研究開発機構では、移動式ホールボディカウンタ車を3台所有している。移動式ホールボディカウンタ車は、原子力施設に係る災害時において周辺住民が放射性物質を体内に取り込んだ可能性がある場合に、救護所、避難所等において全身の測定を可能とし、多数の人々について体内汚染の有無の迅速な判断に活用するためのものである。性能としては、Co-60 及び Cs-137 について、2分間測定の場合で検出下限は 130ベクレル程度である。」と記載されています。
 また、解説では、成人がセシウム137を吸入被曝した24時間後という条件での計測で、預託線量100ミリシーベルトに相当する内部被曝量は約800万ベクレル、計数値は約10万カウント/秒とされています。住民の被曝限度値の1ミリシーベルトに相当する8万ベクレルは、その後の生物学的、物理学的半減期による減衰を考慮しても、現在でも移動式ホールボディカウンタによる一人2分間の測定で十分に検出可能です。
 にもかかわらず、政府は、原発作業員の内部被曝を測定するために、福島県いわき市の東京電力小名浜コールセンターに移動式ホールボディーカウンターを1台派遣したのみで、原発周辺住民の内部被曝を測定するためには使用していません。

原発労働者の被曝量の8割は内部被曝

 東京電力は、6月20日に、震災以降これまでに約7800人が福島原発内の作業に従事し、そのうち地震後3月末までに原発敷地内で作業したのは3639人で、このうち被曝評価を終えた3514人の結果を公表しました。
 被曝評価が終了した3514人中、9人が250ミリシーベルトを超え、200ミリシーベルト超〜250ミリシーベルトが8人、150ミリシーベルト超〜200ミリシーベルトが26人、100ミリシーベルト超〜150ミリシーベルトが81人で、従来の管理基準である20ミリシーベルトを超えた作業員は合計1035人で、作業者の3割に上りました。
 被曝が大きかった30歳代の男性は678ミリシーベルト(そのうち、内部被曝が590ミリシーベルト、外部被曝が88ミリシーベルト)、40歳代の男性は643ミリシーベルト(内部被曝540ミリシーベルト、103ミリシーベルト)など、外部被曝より内部被曝が5倍以上大きく、被曝量の約8割が内部被曝によるものです。
 問題は、被曝評価のできていない作業員125人が残り、このうち下請け企業の作業員69人とは連絡がとれないことです。これまでにも身元を偽って働く(働かされている)「原発ジプシー」の存在が指摘されていましたが、身元不明者を多数原発内で電離放射線作業に従事させていた、東京電力のずさんな管理が明らかになりました。

想定外?の放射能汚染の広がり

 文部科学省が発表した累積線量推定マップ(図1)によれば、30km圏やその後追加された計画的避難区域以外にも、福島市や郡山市など福島県内のあちこちに汚染地が散在しています。これらのホットスポットの存在は以前から指摘されていましたが、政府は県民に周知せず、対策も講じてきませんでした。そのため、30km圏内でも南部など汚染が少ない地域から逆に汚染が多いこれらのホットスポットに避難し、却って被曝を増やしてしまった方々が少なからずいます。
 原発安全神話だけでなく、避難指示でも政府を信用したばかりに、小さい子を余分に被曝させてしまった親御さんの後悔と怒りはいかばかりでしょうか。


毎日jp福島原発図説集http://mainichi.jp/select/jiken/graph/genpatsu_zusetsu/

 5月24日の内閣府原子力委員会で、原子力発電環境整備機構(NUMO)の河田東海夫氏は文部科学省が作成した大気中の放射線量地図を基に土壌中のセシウム137の蓄積量を算定した結果を報告しました。チェルノブイリ原発事故で居住禁止の基準とされた148万ベクレル/m2以上の土壌汚染が約600km2、農業禁止の基準とされた55万〜148万ベクレル/m2の区域は約700 km2に及びます(図2)。


2011年5月25日毎日新聞朝刊http://mainichi.jp/select/jiken/graph/genpatsu_zusetsu/3.html

汚染は関東まで広がっていた

 新茶の季節になり、各地で茶葉の収穫が行われましたが、福島県内のみならず、茨城県や千葉県、栃木県、群馬県、さらには250km以上離れた神奈川県各地(小田原市780ベクレル/kg等)の生茶葉からも出荷制限の500ベクレル/kgを超えるセシウム137が検出され、出荷自粛となりました。農産物の汚染は程度の差はあるものの、当然、お茶に留まるものではありません。生活や産業に対する影響は深刻です。
 チェルノブイリでも見られたように、風向き、地形、降雨の影響などで、原発から数百km離れたところにも、放射性物質が多く降り注いだホットスポットが存在します。急いでそのような場所を特定し、土壌にある放射性物質を管理・除去することが必要です。
 思い起こせば、3月20日に、在日米海軍司令部が横須賀基地と厚木基地の軍人の家族や軍属などを対象に自主的な避難勧告を出し、横須賀基地でメンテナンス作業中だった原子力空母ジョージ・ワシントンは作業を中断して急遽日本を脱出しました。米国は神奈川県までの放射能汚染を予知していましたが、この情報は「ともだち」の日本国民には知らされませんでした。

政府や自治体発表の放射線測定値は地上10-20m

 これまで政府や自治体が発表してきた放射線測定値の中には建物の屋上(地上10-20m)で測定されたものが多く、被曝の推定値としては不適切です。現在の放射線の発生源は大部分が地表に降下したセシウムなどで、人が吸入する地表近くの測定値はより高い数値を示します。
 近畿大学原子力研究所の若林氏らが全国の放射線量を地上から1mに統一して計測したところ、各地で公表値より高い測定値が出ました。5月10日に東京新宿区で0.124マイクロシーベルト/時、葛飾区で0.359マイクロシーベルト/時と文科省公表値の約2-5倍の値でした。これらの値は公衆に対する許容値1ミリシーベルト/年(0.114マイクロシーベルト/時)を上回っています。他にも、千葉県柏市や茨城県水戸市、ひたちなか市、つくば市などがこの基準を超えていました(女性セブン2011年6月2日号)。

住民の総被曝量は推定被曝線量の5倍以上の可能性

 国などの放射線量の公表値が当てにならないため、各地で自治体や自主的な外部被曝線量の測定が進んでいます。地上5cmと1mの両方で測定しているところが増えていますが、その結果は私の予想外でした。
 当初、放射能を出しているセシウム137などの放射性物質が土壌表面に存在し、そこからガンマ線が放出されていると考えていましたが、それであれば理論上、地上1mでの測定値は地上5cmの測定値の400分の1になるはずです。ガンマ線は放射線源からの距離の2乗に比例して減衰するため、地上からの距離が20倍では400分の1になるのです。
 実際の測定値は、多くの地域で、地上5cmと1mの測定値に大きな差がなく、差があるところでも10倍以内です。この結果は、放射線源(放射性物質)が土壌表面ではなく、大気中に目に見えない細かな塵として存在しており、今後も容易に落下しないことを示しています。
 これらの放射性物質のどれだけが3月に起きた爆発によって放出されたものの残存か、どれだけがその後も水蒸気と共に放出され続けているものかの区別は今後の調査を待たなければなりませんが、長期間にわたり、大気が汚染され続けている事態は非常に深刻に受け止める必要があります。
 そこに住む住民は放射性物質を含んだ大気を24時間吸い続けているのであり、土壌表面の撤去や土のそばで遊ばないなどの注意によってだけでは被曝を減らすことが困難であることを示しています。
 大気汚染が主な被曝源ということになれば、総被曝量に占める内部被曝の割合は原発作業者以上に内部被曝の影響を重視する必要があり、外部被曝線量の推定値の5倍以上の内部被曝があると推定しなければなりません。この推定が事実であれば避難区域は大幅な見直しが必要になります。被災住民の方々が心から安心して生活を再開し地域の復興に向かうために、科学的な評価が不可欠であり、早急に住民の内部被曝調査を行うべきです。



 
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